独立して間もない頃のことです。
若いプログラマーを一人雇い、ある会社に派遣していました。
今思えば背伸びでしたが、「自分も経営者だ」と気負っていた時期です。
受け入れをスムーズにするため、派遣先の部長を接待しました。
とはいえ、すでに話はまとまっていて、形式的な懇親会のようなものです。
ところが、その席で妙な話が出ました。
その部長は、昔話のようにこう語るのです。
「取引先の協力で、うちの野球部のユニフォームを作ったことがあってね…」
直接的な表現は一切ありません。
ただ、“取引先の協力”という言葉を何度も繰り返す。
当時の私は、その意味を理解していませんでした。
要するに「金、よこせ!」の要求
後日、その出来事を長く会社経営をしている親戚に話しました。
すると一言。
「それはな、“金、よこせ!”ってことだ」
ああ〜、そういうことか。
世間知らずだった私は、
・売上を少し上乗せしてもらえるなら
・多少のキックバックをしてもいいのではないか
そんな甘い考えさえ浮かんでいました。
しかし親戚は続けました。
「一度出したら、抜けられないぞ」
この一言が刺さりました。
これは“交渉”ではありません。
抜けられない主従の関係
・相手は権限を持つ部長
・こちらは派遣をお願いする立場
一度応じれば、
「継続的な私的負担」が前提条件になります。
ビジネスではなく、財布になる。
契約満了で手を引く
私は乗らないと決めました。
派遣していたプログラマーとの関係もあり、
契約期間の満了で、その会社との取引を終えました。
正直、当時は怖さもありました。
仕事を失うかもしれない。
でも今振り返ると、あの判断は間違っていなかったと思います。
財布にされる下請け社長を見た
その後、ある光景を見ました。
元請け会社の社長の“財布”になっている下請け社長です。
・ゴルフの声がかかる
・飲んでいる処から電話があって出かける
見てはいませんが。個人的な費用の負担もあったかもしれません。
形式は「お付き合い」。
実態は“従属”。
一度その構造に入ると、
取引は対等ではなくなります。
価格も、条件も、主導権も失う。
抜けられないのです。
創業社長との違い
自営業を長くやっていると、
多くの創業社長と付き合うようになります。
彼らは一筋縄ではいきません。
癖も強い。
ですが、
・面白い
・実力がある
・ゼロから会社を立ち上げるエネルギーがある
何より、「事業で勝負」しています。
部長クラスで、
下請けを使って個人的に美味しい思いをしようとする人とは
本質が違うのです。
取引の原則を守る
あのとき、キックバックに乗らなくて本当に良かった。
短期的な売上よりも、
長期的な関係構造を守ることの方が重要でした。
ビジネスは、
・対価が明確で
・契約が透明で
・責任範囲が定義されている
この三点が揃ってこそ健全です。
独立直後は視野が狭くなります。
目の前の売上に引っ張られる。
でも一度、
「不透明な取引」に足を踏み入れると、
それは利益ではなく“負債”になります。
あの部長との付き合いを深めなかったこと。
それが、今の自分を守ってくれたのだと思います。
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